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Sun&R.Lab
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生産者との伴走 — テロワール経営の "現場性" について

山あいの茶畑を望む朝のひかり。生産者の手仕事を象徴する editorial 写真

"素材を仕入れる" と "土地と並走する" は、別の仕事である

テロワール経営という言葉を、私たちは Sun&R.Lab の核に置いています。ワインの世界で語られてきた「土壌・気候・地形・人の介入が織りなす、その土地でしか生まれ得ない表現」を、ノンアルコール飲料・コンサル・BizDev の三事業すべてに翻訳して使う。これが、私たちが事業を編むうえでの根本方針です。

ただ、テロワール経営という言葉を実務に落とすと、最初にぶつかるのは「素材を仕入れる」という単発取引と、「土地と並走する」という長期関係性の、はっきりとした違いでした。

たとえば国産ぶどう山椒。スーパーで売られている乾燥山椒を買うのと、農林水産省の地理的表示 (GI) に登録された産地の生産者から、収穫タイミングに同期して直接受け取るのは、まったく別の仕事です。前者は「物の取引」であり、後者は 時間という資源を、生産者と同期させる仕事 です。私たちが取り組み始めているのは、後者のかたちでの伴走です。

なぜ "時間の同期" が、テロワール経営の核なのか

伝統的なテロワールの定義 (Hugh Johnson と Jancis Robinson の『The World Atlas of Wine』第8版 等) では、土壌・気候・地形・人の介入の四要素が織りなすものとして語られます。このうち、ワインの世界では特に「人の介入」 ── 栽培者・醸造家・熟成担当の判断 ── が、その年のテロワールを最終的に決めるとされています。

ノンアルコール飲料の世界では、発酵という時間的プロセスを経ない分、原料そのものの個性が直接的に味わいに反映されます。だから、生産者がいつ収穫し、どの状態の素材を選び、どの工程で加工するか ── これらの判断が、商品の味わいを大きく左右することになります。

たとえば山あいの茶畑で、栽培者の方が「今日が摘採の日だ」と判断する朝があります。理由は天候・葉の張り・気温の前日比など、複合的なものです。この判断と同期して、こちらも動ける体制を組まなければ、その年のテロワールは商品に宿りません。「来週でいいですよ」と返した時点で、商品はテロワール経営の対象から、ただの素材調達に格下げされてしまう。

これは比喩ではなく、経営の現場で繰り返し直面する具体性です。生産者との関係性で本当に問われているのは、契約条件でも価格でもなく、時間軸が同期できるかどうか だと、私たちは捉えはじめています。

伴走の三層 — 何を、どう、どこまで共にするか

私たちが現場で意識してきた「生産者との伴走」を、三つの層に分けて整理してみます。

第一層: 時間軸の同期

最も基礎的な層です。収穫期に合わせた発注タイミング、緊急の判断に応えるレスポンス、季節の前倒し・後ろ倒しへの柔軟性。これらは「契約書」ではなく「日々の運用」のなかでしか実現できません。Sun&R.Lab は小さな組織だからこそ、ここでの機動力を強みにしたいと考えています。

第二層: 価値の共有

素材を「商品」へ翻訳する過程で、生産者の哲学を共に言語化する作業です。なぜこの品種を選んだのか、なぜこの斜面で栽培しているのか、何代にわたってどんな技を継承しているのか。これらを、商品パッケージ・物語・体験設計に編み込んでいきます。生産者の物語を、私たちが「代弁」するのではなく、生産者と一緒に「翻訳」していく。地味で時間のかかる作業ですが、ここを省略すると、テロワール経営は形だけになります。

第三層: 経済の循環

最も難しい層です。生産者の所得安定、長期の引き取り保証、共同企画への参加、GI 登録や認証取得への伴走。これらは Sun&R.Lab 一社だけで完結できる話ではなく、料飲事業者・地域行政・関連事業者を巻き込んだ循環構造として設計する必要があります。Discovery の途上にある私たちが、いま少しずつ手を伸ばし始めている領域でもあります。

三層は、一段ずつ積み重ねるものというより、最初から三層を意識した関係設計を試みる、というかたちで取り組んでいます。

三事業との関係 — 生産者ネットワークは横断資産

Sun&R.Lab の三事業は、生産者との伴走という観点でも、互いに支え合う構造になっています。

Maison Brand 事業 (NEIGE & THÉ) は、生産者との直接対話を最も濃密に行う場所です。ここで磨かれた関係性と知見が、組織全体の資産になります。「あの産地のあの素材の、あの収穫期にだけ表れる香気を捉えるには」という具体性の議論を、商品設計まで持ち込めるのは、Maison があるからです。

Non-Alcohol Agency 事業では、Maison で得た生産者ネットワークを、料飲事業者の現場とつなぐ橋渡しとして活かしていきたいと考えています。星付きレストランが「特定の産地の素材を、限定ロットで使いたい」という相談を持ち込んでくださったとき、Maison の関係性を背景に、生産者へ丁寧に橋渡しする。これは Discovery 段階の Agency が、これから少しずつ実装していきたい役割の一つです。

BizDev 事業は、直接の生産者関係はありませんが、「業界の現場知を時間軸ごと尊重する」という作法そのものは共通しています。電力業界の運用担当者の方々、物流現場のオペレーターの方々と仕事をするときも、相手の時間軸と判断軸を尊重しないと、どんな技術提案も着地しません。生産者との伴走で磨いた作法は、別の業界でも形を変えて生きています。

三事業を貫く一本の柱として、「現場と時間軸を同期する」という方法論が、組織のなかで少しずつ言語化されてきている ── そう感じています。

Discovery 段階で、私たちが守りたいこと

正直に書いておくと、Sun&R.Lab はまだ立ち上げから日が浅く、生産者の方々との関係性も「これから編んでいく途上」にあります。長期的な実証データを語れる段階にはありません。

それでも、いま守りたいと考えていることがあります。第一に、契約の最初の段階での誠実さ。曖昧な口約束ではなく、価格・量・タイミング・知財・独占性を、できるだけ早く文書で透明にすること。第二に、最も弱い立場のプレイヤー (多くの場合、小規模生産者) の取り分を、最初に確保すること。第三に、関係性が消耗しないペースで進めること。短期の利益最大化を目的に動くと、テロワール経営の前提が崩れます。

これらは「美しい理念」というより、Sun&R.Lab が小さな組織として、長期で関係を編んでいくための 実務的な規律 です。Aman の hotel が世界中のすべての都市に立たないように、Maison de Thé Japonais — Né à Murakami の一杯も、世界中のすべての卓を目指さない。深く編む関係性は、広がるときも壊れない。これが、いまの私たちが信じている仮説です。

産地と並走する、ということ

生産者と時間軸を同期するというのは、結局のところ、土地と並走するということだと、私たちは考えています。

私たちが届けたいのは、産地のラベルが付いた商品ではなく、産地と作り手の物語がひとしずくに宿った一杯です。そのためには、Sun&R.Lab という組織自身が、産地の時間軸で動ける体制を持っていなければならない。Discovery の途上で、いま編んでいるのは、そういう体制と関係性です。


次回は、生産者だけでなく料理人・施設運営者・地域行政との共創をどう設計しているかを綴ります。

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Sources · 出典

  • · 農林水産省『地理的表示 (GI) 保護制度』登録一覧
  • · Hugh Johnson, Jancis Robinson『The World Atlas of Wine』第8版
  • · Wine & Spirits Education Trust (WSET) Diploma 教科書: テロワール定義
  • · Harold McGee『On Food and Cooking』第2版
  • · 経済産業省『DXレポート』(共創概念の経営応用)

Auteur · 著者

中山 光博Sun&R.Lab 合同会社 代表

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繋がりのチカラで、豊かさと幸福が循環する世界を。

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