風味は「素材選び」の後から始まる
良い素材を選ぶことは、良い飲料づくりの半分でしかない、と私たちは考えています。同じ茶葉、同じハーブ、同じ果実を使っても、香りの引き出し方と抽出のしかたで、出来上がる一杯はまったく別のものになります。
アルコール飲料には、発酵や蒸留という工程が香りの奥行きをつくってくれる面があります。ノンアルコール飲料では、その奥行きを、素材から香気や味の成分をどう取り出すかという設計そのもので生み出さなければなりません。だから飲料づくりの後半、つまり抽出の工程こそ、風味設計の主戦場になります。本ノートでは、この工程を三つのつまみに分けて整理してみます。
温度 — どの成分を、どこまで起こすか
抽出でまず考えるのは温度です。素材の中には、低い温度でやさしく溶け出す成分と、高い温度でようやく立ち上がる成分があります。
たとえば茶葉では、うま味に関わるアミノ酸のような成分は比較的低い温度でも溶け出しやすく、渋みや苦味に関わる成分は高い温度でより多く出てくる傾向が知られています。つまり温度を選ぶことは、五軸のうち旨味を立てるのか、苦味で輪郭をつくるのかを選ぶことに近い。ハーブや香辛料でも同じで、繊細な青い香りは熱で飛びやすく、重い樹脂のような香りは熱をかけないと開きません。どの香りを主役にしたいかを先に決めて、そこから逆算して温度を選ぶ。これが最初のつまみです。
時間と粒度 — 濃さと質を分けて考える
二つ目のつまみが接触時間、三つ目が素材の粒度です。この二つは「濃さ」と「質」を左右します。
長く抽出すれば成分は多く出ますが、望ましい香りだけでなく、雑味や過度な苦味も一緒に出てきます。粒度を細かくすれば表面積が増えて抽出は速く進みますが、進みすぎると輪郭がぼやけます。コーヒーの世界で語られてきた「濃度と収率」の考え方は、素材が違っても発想として応用できます。要は、どこまで出すと足りず、どこから出すと出しすぎになるか、その良い範囲を素材ごとに見極めるということです。
私たちが現場で大切にしているのは、濃さと質を分けて議論することです。「もっと味を濃く」という要望に、単純に抽出を強めて応えると、雑味まで濃くなってしまう。狙った香りの質を保ったまま濃さだけを上げるには、温度・時間・粒度の組み合わせを調整するしかありません。三つのつまみを別々に動かせるようになると、風味の設計はぐっと自由になります。
OEM の現場で、レシピを再現可能にする
Maison Brand で磨いたこうした技術は、OEM でものづくりをご一緒するときにそのまま生きます。試作の一杯が美味しくても、それを工程として再現できなければ商品にはなりません。
だから私たちは、感覚で決めた「ちょうどいい」を、できるだけ温度・時間・粒度・水の質といった具体的な数値に翻訳するようにしています。誰が作っても近い一杯になること、季節や仕込みの量が変わっても品質が揺れないこと。この再現性こそ、ボトルの中で品質を完結させるための土台です。職人の勘を否定するのではなく、勘を数値の言葉に置き換えて、次の作り手にも渡せるかたちにしておく。地味な作業ですが、ここを丁寧にやるかどうかで、商品の安定感が変わります。
香りを設計する、ということ
香りと抽出の設計は、素材の個性を引き出す作業であると同時に、素材を尊重する作業でもあります。無理に足したり、強く出しすぎたりせず、その素材がいちばん自然に語れる状態を探す。
温度・時間・粒度という三つのつまみを丁寧に扱えば、ノンアルコールでも、素材の物語がまっすぐ伝わる一杯をつくれると私たちは考えています。飲料づくりは、産地から届いた素材を、飲む人の手元まで橋渡しする最後の工程です。その橋を、できるだけ素直に架けたいと考えています。
このシリーズでは、飲料づくりの技術を、現場の具体性とともに少しずつ綴っていきます。
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Sources · 出典
- · Harold McGee『On Food and Cooking』第2版 (香気成分・抽出化学の基礎)
- · Specialty Coffee Association (SCA) 抽出の考え方 (抽出濃度と収率の関係)
- · 農林水産省・各種茶業試験研究の一般的知見 (茶の水温別成分溶出の傾向)
- · 国際ソムリエ協会 (ASI) ペアリング教本: 芳香の評価軸
Auteur · 著者
Sun&R.LabSun&R.Lab 合同会社 代表
