単独で完結する事業を、私たちは選ばない
Sun&R.Lab を起業するにあたって、早い段階で決めたことがあります。「単独で完結する事業を、極力選ばない」 ということです。
Maison Brand 事業も、Non-Alcohol Agency 事業も、BizDev 事業も、すべて共同企画 (Co-creation) のかたちで設計する。ノンアルコール飲料の自社プロダクトを作るときも、生産者との協働、料理人・ソムリエとの共同開発、ホスピタリティ事業者との共同企画を、必ず組み込む。Agency 事業は店舗オーナーとの伴走関係として設計する。BizDev 事業はクライアントの本業内の新規事業として並走する。
これは「みんなで仲良くやりましょう」という情緒的な選択ではなく、Sun&R.Lab が信じている事業構造から導かれる 方法論 だと、私たちは捉えています。本記事は、その共創設計の流儀を綴ったノートです。
Open Innovation という参照点
経営学の分野で「共同企画」「共創」「Open Innovation」といった概念が体系化されはじめたのは、2003 年に出版された Henry Chesbrough 著『Open Innovation: The New Imperative』が一つの起点とされています。それ以前、企業は研究開発から商品化までを自社内で完結する「Closed Innovation」を主流としていました。知識・技術・市場の専門化が進んだ現代では、組織の壁を越えて知識を流通させる仕組みが、競争優位の鍵だと Chesbrough は主張しました。
経済産業省の『DXレポート』や OECD の『Future of Work 2024』も、この方向性を支持しています。デジタル化と AI 活用の時代では、単一組織内での試行錯誤よりも、異なる専門性を持つ組織が一時的にチームを組み、特定の課題に対して共創するほうが、結果が早く深く出る ── という観察です。
Sun&R.Lab が共同企画を選ぶのは、この国際的な経営思想の文脈にも沿っています。ただ、私たちにとってより本質的なのは、流行への追従ではなく、テロワール経営の構造的必然 として共創を選んでいる、という点です。
テロワール経営は、構造的に複数の専門性を要求する
テロワールという概念を分解すると、土壌・気候・地形・人の介入の四要素から成り立っています。このうち、Sun&R.Lab が単独で持っているのは、最後の「人の介入」の一部 (商品設計・抽出技術・ブランド編集) だけです。
土壌・気候・地形は、生産者の方々が長年向き合ってきた現場にあります。料理との対話は、シェフ・ソムリエの方々が現場で磨いてきた感性のなかにあります。ゲストの体験は、ホスピタリティ事業者の方々が日々設計してきた現場でしか完成しません。
つまり、テロワール経営は 構造的に複数の専門性を統合しないと完成しない のです。Sun&R.Lab が単独で動くことは、定義上、不可能に近い。だから、生産者・料飲プロフェッショナル・ホスピタリティ事業者の三者と継続的に共同企画を組むことで、はじめて「土地の物語が一杯のなかに宿る」体験が成立すると、私たちは捉えています。
ここから導かれる帰結はシンプルです。Sun&R.Lab は「共創パートナーを募集する会社」ではなく、「共創パートナーが集まらないと事業が成立しない会社」である ── という前提で組織を設計する必要がある、ということです。
共創を経営判断軸として使う三つの基準
共同企画には、必ず利害の対立の局面があります。価格、納期、独占性、ブランド表記、収益分配。これらを調整する際、Sun&R.Lab が大切にしたいと考えている判断軸を、三つに整理して共有します。
第一に、短期の取引より長期の関係を優先する。一回限りの利益最大化を目指すと、関係性が消耗します。次の企画で再び組みたいと思える関係を、第一に守る。共創相手に対しても、自社に対しても、この規律を持ち続けたいと考えています。
第二に、最も弱い立場のプレイヤーの利益を、最初に確保する。共同企画には、力の差があるプレイヤーが混在することが多くあります。生産者・小規模事業者の取り分が、不当に小さくならないよう、最初の設計段階で確保しておく。これは「弱者保護」というより、エコシステム全体の持続可能性を担保するための実務的な判断です。
第三に、公正な対価を曖昧にしない。料理人やソムリエの監修料、ブランド使用料、レシピ開発料 ── 業界として相場が確立していない部分も、Sun&R.Lab は数字で具体化し、契約書に明記したいと考えています。これは Eric Ries が『The Lean Startup』で示す「曖昧さを早期に解消する」という方法論にも通じる規律です。
これら三つの判断軸は、Sun&R.Lab がいま編んでいる事業のなかで意識してきた指針です。実証データとして網羅的に語れる段階にはなく、共創パートナーの皆様との対話のなかで、これからも検証していく途上にあります。
三事業のなかで、共創はどう実装されているか
三事業それぞれで、共創のかたちは少しずつ異なります。
Maison Brand 事業では、共創は 商品の根幹 にあります。レシピ・抽出技術は Sun&R.Lab LLC. に帰属させつつ、生産者との品質共創、料理人との料理共創、施設との体験共創を、商品設計の前提条件として組み込んでいます。NEIGE & THÉ のラベルに、共同企画パートナーの名前を明示する設計もあり得ます。
Non-Alcohol Agency 事業では、共創は 伴走の構造 そのものです。「Sun&R.Lab が知見を売る」のではなく、「Sun&R.Lab と店舗が一緒に磨いていく」関係。STEP01 のヒアリングから始まり、店舗の課題に応じて Sun&R.Lab のネットワーク (ソムリエ・地域行政・関連事業者) を最適配置していくチームアップのかたちは、典型的な共創設計です。
BizDev 事業では、共創は 業界文化への敬意 として現れます。電力業界・物流業界・ラグジュアリーブランドの DX 案件は、業界の暗黙知を Sun&R.Lab がスキップして提案するのではなく、現場のエンジニア・運用担当の方々と一緒にデジタル化を編んでいくかたちで進めています。クライアントの本業内の新規事業として並走する ── これも、典型的な共創の作法です。
三事業はバラバラに見えますが、共創の構造を中心に置くという点で、根は同じです。
「断る勇気」という、もう一つの規律
最後に、共創設計における大切な姿勢として、「断る勇気」を共有しておきたいと考えています。
Sun&R.Lab は、すべての共同企画案件を受けるわけではありません。ブランドの世界観と合わない現場、安売り訴求や薬機法グレーの表現を求められる企画、最も弱い立場のプレイヤーが不利益を被る構造の企画、Values (繋がり・循環・共創・探究心・笑顔) と整合しない関係性 ── これらは、丁寧にお断りすることにしました。
これは「選り好み」ではなく、ブランドを長期的に磨くための規律です。世間的に魅力的に見える案件でも、Values に合わなければ、戦略的に断る。逆に、規模は小さくても Values に深く共鳴してくださる方々との企画は、最優先で取り組む。事業の大小ではなく、関係性の質と物語性が、Sun&R.Lab の選択基準です。
「みんなで作って、みんなで届けて、みんなが豊かになる」 ── そんな循環の経済を、Sun&R.Lab は事業構造として少しずつ実装していきたいと考えています。一回限りのコラボレーションではなく、世代を越えて続く関係性を、共創パートナーの皆様と一緒に育てていく。これが、私たちの経営の北極星です。
次回は、共創を支える人材観 ── Sun&R.Lab がどんな素養を持つ方と組みたいかを綴ります。
Tags
Sources · 出典
- · Henry Chesbrough『Open Innovation: The New Imperative』2003
- · 経済産業省『DXレポート』および『未来の教室』 (共創概念の経営応用)
- · OECD『Future of Work 2024』(共創エコシステムの国際比較)
- · Eric Ries『The Lean Startup』(MVP・実証実験の方法論)
- · 農林水産省『地理的表示 (GI) 保護制度』登録一覧
Auteur · 著者
中山 光博Sun&R.Lab 合同会社 代表
