「一つに集中せよ」という常識に、あえて逆らう
経営の常識では、小さな会社ほど一つの事業に集中すべきだと言われます。限られた人と時間を分散させれば、どれも中途半端になる——もっともな指摘です。
それでも Sun&R.Lab は、Maison Brand、Non-Alcohol Agency、BizDev という三つの事業を並べて手がけています。これは、常識を知らないからではありません。集中の利点を理解したうえで、あえて別の道を選んでいます。本ノートでは、小さな会社がなぜ複数の事業を持つのか、その理由を率直に綴ります。派手な多角化戦略の話ではなく、私たちなりの、地に足のついた理由です。
「バラバラの三つ」ではなく「一つの根の三本の枝」
まず前提として、私たちは三つの事業を、無関係な三つとは捉えていません。同じ一つの根から伸びた、三本の枝だと考えています。
その根とは、土地・文化・人が交わるところに固有の価値が宿るという、テロワールの考え方です。ノンアルコール飲料も、料飲店への伴走も、電力や物流のシステムも、表面はまったく違って見えます。けれど、どれも「その現場に固有の条件を読み、そこにいる人と一緒に価値をつくる」という同じ仕事です。この共通の根があるから、三つはバラバラに散らばるのではなく、互いに支え合います。無関係な事業を寄せ集めたのではなく、一つの考え方を三つの領域で試している——これが出発点です。
事業をまたいで使える、共通の資産
複数の事業を持つことが強みになるのは、事業をまたいで使える資産があるときだと私たちは考えています。この共通資産こそ、分散の弱みを強みに変える鍵です。
たとえば、Maison Brand で生産者と収穫期を合わせてきた「相手の時間軸を尊重する作法」は、BizDev で電力や物流の現場と向き合うときにそのまま生きます。ペアリングで培った「現場の感性を言葉にする力」は、業界の暗黙知をシステムに落とす仕事に応用できます。Maison が積み上げるブランドの信頼は、Non-Alcohol Agency が料飲店に向き合うときの土台になります。一つの事業で磨いた能力が、別の事業の足場になる。この移し替えができるとき、複数の事業は足を引っ張り合うのではなく、育て合います。
揺れに耐える、しなやかさ
もう一つの理由は、事業環境の揺れに耐えるためです。小さな会社にとって、一つの事業だけに全てを賭けることは、その事業が向かい風にあったとき、逃げ場がないことを意味します。
三つの事業は、景気や季節の影響の受け方が違います。ある事業が停滞しているとき、別の事業が支える。この分散は、リスクを減らすための保険であると同時に、腰を据えて長期の関係を育てるための余裕でもあります。目先の一つの事業の数字に追われて、生産者や地域との十年単位の関係を犠牲にしてしまう——そうならないための、しなやかさを持っておきたい。集中がもたらす鋭さの代わりに、私たちは分散がもたらす粘り強さを選んでいます。
分散の代償を、正直に引き受ける
もちろん、複数の事業を持つことには代償があります。経営者の注意は分かれ、それぞれの事業は集中する競合より歩みが遅くなることもある。この代償を、私たちは正直に引き受けています。
だからこそ、事業の数をむやみに増やすことはしません。共通の根でつながり、資産を移し替えられる範囲でだけ、事業を持つ。根が同じでない事業に手を広げれば、それはただの分散になり、常識どおり全てが中途半端になります。複数の事業を持つ自由は、共通の土台という規律とセットでしか成り立たない。私たちは、この規律を守ることを、自分たちへの約束にしています。
小さいからこそ、複数を手がける
最後に、逆説的に聞こえるかもしれないことを書いておきます。私たちが複数の事業を手がけられるのは、大きいからではなく、小さいからです。
小さな会社は、事業のあいだの壁が低く、一人の学びが会社全体にすぐ行き渡ります。大きな組織なら事業部ごとに分断されてしまう知恵が、小さな私たちのなかでは自然に混ざり合います。この混ざり合いこそ、複数の事業を持つ最大の意味だと考えています。小さな会社が複数の事業を手がけるのは、無謀な拡大ではなく、小ささを活かした一つの選択です。一つの根を大切にしながら、三本の枝を、あわてず育てていきたいと考えています。
この Journal では、Sun&R.Lab の経営の考え方を、不定期に綴っていきます。
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Sources · 出典
- · C.K. Prahalad, Gary Hamel『The Core Competence of the Corporation』1990 (中核能力の概念)
- · Henry Chesbrough『Open Innovation』2003 (事業横断の資産活用)
- · 一般的な事業ポートフォリオ・リスク分散の経営知見
Auteur · 著者
Sun&R.LabSun&R.Lab 合同会社 代表
