本文へスキップ
Sun&R.Lab
← Journal に戻る
·経営哲学·8 分で読める

Discovery 期という時間 — 編んでいる途上にある会社のかたち

夜明け前の山あいの風景を象徴する editorial 静物。余白の多い静謐なイメージ

"完成形を語らない" という選択

Sun&R.Lab は、いま立ち上げから日が浅い組織です。Maison Brand (NEIGE & THÉ)、Non-Alcohol Agency、BizDev ── 三つの事業を並列で運営することにしていますが、どの事業も「完成形」と呼べる段階にはありません。

このフェーズで、私たちは「未来を断定する語彙」を意識的に避けることにしました。「業界 No.1」「圧倒的な実績」「革命的な事業」 ── こうした語彙は、創業者の側に立つ言葉としては気持ちがよいかもしれませんが、Discovery 段階の会社が掲げると、後から自分自身を縛ることになります。事業が育ちながら変化していく余白を、最初の言葉で塞いでしまう。これは、私たちが避けたいと考えている失敗のかたちです。

代わりに採用したい姿勢を、私たちは「Discovery 期」と呼ぶことにしました。「これから編んでいく途上にある」という姿勢を、組織のかたち・言葉・判断のすべてに通底させたい ── そう考えて、事業を進めています。本記事は、その Discovery 期の姿勢を、率直に綴るノートです。

なぜ Discovery 期を、組織の前提に置くのか

Eric Ries が『The Lean Startup』で示した方法論の核は、「事業の前提を、できるだけ早く実証実験で検証する」というものでした。「正しい計画を立てる」のではなく、「計画と現実のズレを早く発見する」ことに価値の重心を置く。Sun&R.Lab はこの方法論の影響を受けつつ、もう一段先を考えています。

それは、Discovery を「初期フェーズで卒業すべきもの」ではなく、「組織が育ちきっても続けたい姿勢」として置きたい、ということです。事業が成熟したら確信が手に入る、というのは、私たちの観察では半分しか正しくありません。事業が成熟しても、市場・技術・関係性は変化し続けます。むしろ成熟期にこそ、「分かったつもり」の手前で踏みとどまる Discovery の姿勢が、組織の自己更新を可能にします。

Carol Dweck の「成長マインドセット」の研究も、この方向を支持しています。固定的な「私はこういう会社だ」「これはこういう事業だ」という枠組みに止まらず、状況の細部に新しい問いを見出し続ける姿勢。これを、組織の常態として置きたいと、私たちは考えています。

Discovery 期に守りたい、四つの規律

Discovery 期を組織のかたちとして実装するために、私たちが守りたいと考えている規律を、四つ整理してみます。

規律 1: 数値断定を避ける、けれど数値を見続ける

Discovery 段階で「市場規模 N 億円」「シェア M %」「年率 P % 成長」と断定するのは、誠実さに欠けます。サントリー社の 2024 年 6 月調査でも、IMARC Group の 2025 年予測でも、ノンアルコール飲料市場が質的転換期に入っていることは観察されていますが、Sun&R.Lab がその市場のどこに位置づくかは、これから編んでいく途上です。

ただし、数値を見ないわけではありません。むしろ、数値を見続ける作業は、Discovery の中核です。事例が増えている、手応えを期待している、徐々に観察されはじめている ── こうした「断定しないが観察を続ける」表現を、私たちは意図的に採用しています。

規律 2: 具体名を抽象化する、けれど具体性を捨てない

Discovery 段階で、共創パートナー候補の実社名・取引先実社名を公にすることは避けています。これは秘匿主義ではなく、関係性が編まれる前に名前だけが先行することの不健全さへの配慮です。

ただし、具体性そのものは捨てません。「現在いくつかの料飲事業者と対話を進めている」「Discovery の途上で観察される傾向として」── こうした表現は、抽象的な言い回しに見えるかもしれませんが、実際には現場で起きている具体性を honor したうえで、関係性の保護のために register を慎重に選んでいる結果です。

規律 3: 北極星を掲げる、けれど到達を急がない

Sun&R.Lab には、いくつかの北極星があります。「テロワールで紡ぐ、世界への架け橋」というビジョン、「ミシュラン現場の感性で評価されるレベル」という品質基準、「FY27 H1 World Bridge Phase」という ROADMAP の節目。これらは、いま到達できる目的地ではなく、遠くに掲げる星として機能させています。

北極星を掲げるのは、方角を見失わないためです。けれど、その方角に向かって急ぐと、Discovery の細やかな観察が雑になります。十年単位で並走する関係性、産地と同期する時間軸、生産者・料理人・施設運営者との丁寧な対話 ── これらは、急いで進めると壊れてしまう種類の仕事です。北極星と現在地のあいだの距離を honor すること。これも、Discovery 期の規律の一つです。

規律 4: 断る勇気を持つ、けれど開かれていたい

Discovery 期だからこそ、すべての案件を受けるわけにはいきません。ブランドの世界観と合わない現場、Values と整合しない関係性、最も弱い立場のプレイヤーが不利益を被る構造の企画 ── これらを丁寧にお断りする規律は、組織を長期で守るために不可欠です。

ただし、断ることが習慣化すると、組織は閉じていきます。だから、断る勇気と同じ重さで、「もしかしたら自分かも」と感じてくださる方々に対して、いつでも対話のドアを開いておく姿勢を持ち続けたい。両者は、Discovery 期にあっては、矛盾するのではなく、補完し合う規律だと、私たちは考えています。

三事業に共通する、Discovery の流儀

Sun&R.Lab の三事業は、業種としてはまったく異なって見えます。ノンアルコール飲料の商品開発、料飲事業者への伴走支援、電力・物流業界のシステム開発。けれど、Discovery の流儀という観点では、根は同じです。

Maison Brand 事業では、Discovery は「商品ラインナップを Discovery を経て磨く」というかたちで現れます。具体的なラインナップは、共創パートナーの皆様との対話を経て、これから磨き上げていきます。本ノートで描いたコース実例も、現時点では「こうした設計が可能になる」という構想の素描であり、最終的なペアリングは各店舗の哲学・ゲスト層・コース全体の意図に応じて、個別最適化していく前提です。

Non-Alcohol Agency 事業では、Discovery は「現在いくつかの料飲事業者と対話を進めている」という register で現れます。具体的な client 名や個別の事例を語る段階にはまだなく、これからご縁を編んでいく段階にあります。本 journal の Agency 関連記事も、現時点での設計図を共有するノートとして、Discovery 段階の慎重さで綴っています。

BizDev 事業では、Discovery は「業界文化との対話を急がない」という規律で現れます。業界特化型 DX で大切なのは、業界文化との対話。急ぐべきは技術導入ではなく、文化への敬意の表明 ── という方法論は、Discovery の流儀が他業界に翻訳された姿でもあります。

三事業を貫いて言えるのは、Sun&R.Lab における Discovery は、フェーズではなく 姿勢 だということです。

過剰な顕示はしない、という選択

Discovery 期の Sun&R.Lab には、もう一つ大切にしている姿勢があります。それは、「過剰な顕示はしない」というものです。

事業の構造を、Journal で初めて静かに示唆する。そんな慎ましさが、Discovery 段階の私たちには似合っていると、私たちは考えています。実績を派手に語ることよりも、これから編んでいく関係性のほうに、組織のエネルギーを集中させたい。Aman の hotel が世界中のすべての都市に立たないように、Maison de Thé Japonais — Né à Murakami の一杯も、世界中のすべての卓を目指さない。すべての引き合いに応えるのではなく、ご縁の質を見極めて、ゆっくりと頷く。

これは戦略というより、姿勢の問題です。Discovery 期の慎ましさが、後に Sun&R.Lab の輪郭を支える骨格になっていく ── そう信じて、いまの規律を選んでいます。

編んでいる途上、ということ

最後に、Sun&R.Lab という会社のかたちを、もう一度、Discovery の言葉で描き直してみます。

Sun&R.Lab は、まだ未完成です。商品ラインナップも、共創パートナーのネットワークも、海外展開の道筋も、組織のかたちも。けれど、未完成であることは、私たちにとって弱さではなく、開かれていること、そして編んでいる途上にあることの証だと、私たちは捉えています。

完成形を急いで語らないこと。Discovery の規律を、組織の常態として守り続けること。北極星と現在地のあいだの距離を honor すること。これらが、Sun&R.Lab という会社の、いまの輪郭です。

ご縁を編んでいきたい方々がいます。土地と十年単位で向き合う生産者の方。一夜の物語を設計するシェフ・ソムリエの方。地域の食と観光を磨いていきたい自治体の方。Discovery 段階の Sun&R.Lab に時間軸の長い視座で並走してくださる方。どの方とも、ゆっくり、ひとつずつ、ご縁を編んでいきたいと考えています。

編んでいる途上にある、ということ自体を、組織のかたちとして引き受ける。これが、Sun&R.Lab の Discovery 期の姿勢です。


この Journal では、Discovery の途上で生まれた思考と発見を、不定期に綴っていきます。

Tags

Sources · 出典

  • · Eric Ries『The Lean Startup』(MVP・実証実験の方法論)
  • · Henry Chesbrough『Open Innovation: The New Imperative』2003
  • · Carol Dweck『Mindset: The New Psychology of Success』
  • · サントリー『ノンアルコール飲料に関する意識調査』2024 年 6 月
  • · IMARC Group『Japan Non-Alcoholic Beverage Market Report』2025
  • · Hugh Johnson, Jancis Robinson『The World Atlas of Wine』第8版

Auteur · 著者

中山 光博Sun&R.Lab 合同会社 代表

プロフィールを見る

繋がりのチカラで、豊かさと幸福が循環する世界を。

ホームへ