電気は、地域そのものだった
Sun&R.Lab の代表は、静岡の茶農家の家に育ち、IT の仕事を経て、再生可能エネルギー、そして地域新電力の現場に関わってきました。2023 年に Sun&R.Lab を立ち上げるまでの道のりのなかで、事業共創について最も多くを学んだのは、地域新電力の現場でした。
地域新電力とは、大まかに言えば、その地域で生まれた電気を、その地域で使えるようにする取り組みです。制度としては、2016 年の電力小売全面自由化によって道が開かれました。ただ、現場に入って分かったのは、これは電気を売り買いする事業である以前に、地域そのものと向き合う事業だということでした。電気の流れをたどると、その先には必ず、地域の産業、雇用、財政、そして人の暮らしがありました。
行政と組むということ — 時間軸の違いを引き受ける
地域新電力は、多くの場合、自治体や地域の事業者と協働して進みます。ここで最初に直面したのが、時間軸の違いでした。
行政には、単年度の予算、議会の承認、住民への説明責任という固有のリズムがあります。民間のスピード感で「早く決めましょう」と迫っても、話は前に進みません。かといって、行政のペースに全面的に合わせるだけでは、事業として立ち上がらない。この二つの時間軸のあいだで、どう歩幅を合わせるか。地域新電力の現場で見えてきたのは、相手の意思決定のリズムを軽んじず、その動線に合う形で提案を組み立てるということでした。これは、後に Sun&R.Lab の BizDev 事業で電力会社や物流の現場と向き合うときの、基本の作法になっています。
誰の利益から先に置くか
もう一つ、地域との協働で繰り返し問われたのが、「誰の利益を先に置くか」でした。事業として成り立たせるには収益が要りますが、地域新電力の本来の目的は、地域にお金と価値が循環することにあります。
外から来た事業者が、収益だけを持ち去っていく構図では、協働は続きません。地域の事業者、住民、行政、そして事業者自身。その全員がわずかでも良くなる形を、最初の設計に組み込んでおくこと。短期の利益を最大化する誘惑を退けて、循環が続く配分を先に決めておくこと。これは Maison Brand で生産者との関係を考えるときの姿勢と、根のところで同じでした。事業の種類は違っても、最も弱い立場の人の取り分を先に確保するという規律は、地域と組むすべての仕事に通じると考えています。
共創は、合意形成の積み重ねでできている
事業共創という言葉は、耳あたりが良い一方で、現場では地道な合意形成の積み重ねそのものです。華やかな協定調印の一枚の写真の裏には、数えきれない打ち合わせと、立場の違う人たちの粘り強い調整があります。
地域新電力の現場で学んだのは、共創とは「利害の違う人たちが、それでも同じ方向を向ける一点を、時間をかけて探す作業」だということでした。全員の思いが完全に一致することは、まずありません。けれど、少しずつ重なる部分を見つけて、そこから始める。この積み重ねを飛ばして、きれいな絵だけを先に描いても、事業は地域に根づきません。
地域で学んだことを、次の事業へ
Sun&R.Lab を立ち上げたいま、私たちは地域新電力で学んだことを、別の事業のかたちで続けています。行政や地域と向き合った時間軸の作法、循環を先に設計する規律、合意形成を急がない忍耐。これらは、電気という主題を離れても、そのまま生きています。
事業を共につくるということは、相手の土地と時間を尊重することから始まります。地域新電力の現場が教えてくれたのは、結局のところ、この一点でした。派手ではないけれど、確かに手応えのある学びを、これからの共創にも持ち込んでいきたいと私たちは考えています。
BizDev 事業の考え方については、Journal の関連記事もあわせてご覧ください。
Tags
Sources · 出典
- · 経済産業省・資源エネルギー庁『電力の小売全面自由化』(2016 年施行) の制度概要
- · 資源エネルギー庁『地域とエネルギー』関連資料 (地域新電力・地産地消型エネルギーの一般的枠組み)
- · Henry Chesbrough『Open Innovation』2003 (共創の経営概念)
Auteur · 著者
Sun&R.LabSun&R.Lab 合同会社 代表
