需給予測は、モデルより足場が問われる
電力にも物流にも、「必要な量を、必要なときに、過不足なく用意する」という共通の課題があります。電力なら発電と需要のバランス、物流なら荷物と車両・人員のバランス。この調整を支えるのが需給予測です。
需給予測というと、精度の高いモデルをどう作るかに話が向かいがちです。けれど私たちが現場で繰り返し感じてきたのは、モデルの巧拙よりも先に、その足場となるデータ基盤が問われるということでした。どれだけ優れたモデルも、入ってくるデータが不揃いだったり、遅れて届いたりすれば、現場では使えません。本ノートでは、この足場の考え方を、精度・粒度・運用という三つの切り口で整理します。
精度 — 「当てる」より「外し方を設計する」
第一の勘所は精度の捉え方です。予測は外れるものだ、という前提から始めるほうが、実務では健全だと考えています。
大切なのは、外れをゼロにすることではなく、外れたときにどう困るかを見極めることです。電力の需給では、計画と実績のずれを 30 分単位で埋める仕組みがあり、ずれの方向によって調整のコストが変わります。物流でも、多く見積もりすぎて車両が余るのと、少なく見積もって運びきれないのとでは、痛みの質が違います。だから、単純に予測誤差を小さくするだけでなく、「どちら向きの外れが、どれだけ痛いのか」を織り込んで設計する。予測を「当てるゲーム」ではなく「外し方を管理するゲーム」として捉え直すことが、最初の勘所です。
粒度 — 細かければ良いわけではない
第二の勘所は、データと予測の粒度です。細かく予測できるほど良い、と思われがちですが、現場ではそうとは限りません。
電力なら 30 分単位、物流なら日別・便別といった具合に、意思決定に使う単位が決まっています。その単位より細かく予測しても、現場が使えなければ意味がありません。逆に、粗すぎると調整が間に合わない。だから粒度は、精度の都合ではなく、意思決定の単位から逆算して決めるべきものです。あわせて、素材となるデータの粒度も揃えておく必要があります。ばらばらの単位で集めたデータを無理に合わせると、そこで誤差が生まれます。何の単位で意思決定するのかを先に確かめ、データも予測もその単位に揃える。この整合が、地味ですが効きます。
運用 — 作った後に、誰が回すのか
第三の、そして最も見落とされがちな勘所が運用です。予測モデルは、作った瞬間から少しずつ現実とずれ始めます。季節が変わり、設備が変わり、需要の傾向が変わるからです。
だから私たちは、モデルを納めて終わりにするのではなく、「誰が、どうやって、これを回し続けるのか」を最初から設計に入れます。予測が大きく外れたときに気づける仕組み、データが届かなくなったときに分かる仕組み、現場の担当者がモデルの調子を確かめられる仕組み。派手ではありませんが、この運用の足場があるかどうかで、DX が定着するか、一度きりの実験で終わるかが分かれます。現場の運用担当の方々の負担を増やさずに回せる形にすること。これが、私たちが最も気を配る点です。
現場知を、特徴量に翻訳する
需給予測のデータ基盤づくりで、私たちが大切にしているもう一つのことがあります。それは、現場の人が経験的に持っている勘を、予測に使える手がかりに翻訳することです。
「連休前は動きが変わる」「この気温を超えると跳ねる」「この曜日は読みにくい」——現場の担当者は、こうした感覚を経験のなかに蓄えています。これらは、そのままではデータになりませんが、丁寧に聞き取れば、予測を支える手がかりに変えられます。統計や機械学習の技術は、この現場知を無視するためのものではなく、現場知をより多くの人が使える形にするためのものだと、私たちは捉えています。技術と現場知を対立させず、両方を土台に据える。これが、電力・物流 DX に共通する勘所だと考えています。
BizDev 事業では、業界の現場知を尊重した技術の実装を大切にしています。
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Sources · 出典
- · 資源エネルギー庁『電力需給』関連資料 (計画値同時同量制度の一般的枠組み)
- · 一般社団法人 日本卸電力取引所 (JEPX) 取引制度の概要
- · 電力広域的運営推進機関 (OCCTO)『需給調整市場』の一般的枠組み
- · 一般的なデータエンジニアリング知見 (データ品質・特徴量・運用の考え方)
Auteur · 著者
Sun&R.LabSun&R.Lab 合同会社 代表
