"テロワール" は飲料だけの言葉ではない
ワインや農産物の文脈で語られる「テロワール (Terroir)」は、フランス語で「土地」を意味する単語から派生しました。同じ品種のぶどうでも、ブルゴーニュとボルドーでは異なる味になる——その違いを生む条件の総体を指す言葉です。
伝統的にテロワールは三つの要素で語られます:
- Le Lieu (土地) — 風土、気候、地形、土壌
- La Culture (文化) — 受け継がれてきた製法、知恵、感性
- Les Gens (人) — 作り手、職人、コミュニティ
私たちはこの三層構造を、事業を読み解くフレームとして使っています。
"事業テロワール" の三層
Le Lieu — 業界・地域・市場の固有条件
電力業界には電力業界の構造があり、新潟には新潟の経済圏があり、ノンアル飲料市場にはその市場特有の購買動機があります。これは「変えられないもの」ではなく、事業設計の前提条件として読むべきものです。
業界の規制、地域の物理的特性、市場の暗黙のルール——「Le Lieu」を読み違えると、どんな素晴らしい戦略も着地しません。
La Culture — 業界文化・組織文化・受け手の文化
電力業界には電力業界の働き方の文化があり、レストランにはレストランの所作があり、新潟の企業には新潟の意思決定スタイルがあります。これを尊重するか、これと戦うか——事業設計の最大の岐路はここにあります。
私たちは「尊重して活かす」立場です。文化を更新するのは、文化を否定するのではなく、文化と対話することからしか始まらないと考えています。
Les Gens — 作り手・受け手・編み手
最後に、人。事業の現場には必ず固有の人々がいます。生産者、職人、エンジニア、デザイナー、経営者、顧客。「Les Gens」を見ずに事業設計はできません。
抽象的な「ターゲット」ではなく、具体的な顔と名前と物語を持った人。テロワールが価値になるのは、この最後のレイヤーで、誰かが受け取ってくれる瞬間だけです。
"事業テロワール論" がもたらすもの
この方法論を採用すると、事業設計の問いが変わります。
Before: 「どんなプロダクトを作ればこの市場で勝てるか?」 After: 「この土地・この文化・この人々の中で、私たちはどんな価値の編み手になれるか?」
主語が「市場」から「私たち × その場所の人々」に移ります。マーケットインでもプロダクトアウトでもない、テロワールインとでも呼ぶべき第三の設計法です。
三事業に共通する設計法
Sun&R.Lab が手がける三つの事業には、すべてこの設計法が通底しています。
- NEIGE & THÉ — 産地のテロワール × 作り手の手仕事 × 受け手の場面 = ひとしずくの体験
- ノンアルコール導入コンサル — レストランの場 × そこにある所作 × ゲストとの瞬間 = 新しい体験設計
- BizDev 事業 — 業界構造 × 組織文化 × 関わる人々 = 一気通貫の伴走
テロワールで紡ぐ、世界への架け橋。
これは私たちの Vision ですが、同時に、事業設計の実践的な指針でもあるのです。
次回は「BizDev 事業の現場で、テロワール論をどう使っているか」を、実際の支援プロジェクトを下敷きに綴ります。
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Auteur · 著者
中山 光博Sun&R.Lab 合同会社 代表
