世界で同時に、けれど別々の理由で動いている
ノンアルコールは、いま一つの国だけの現象ではなく、世界各地で同時に動いている潮流です。IWSR の no/low alcohol に関する調査シリーズをはじめ、複数の観測が、この分野の広がりを継続的に報告しています。
ただ、私たちが注意深く読みたいのは、市場が伸びているという結論そのものよりも、地域ごとに動機が違うという点です。同じ「ノンアルコールが選ばれる」という現象でも、欧州・北米・アジアでは、その背景にある理由が異なります。数字を並べて成長を語る前に、この動機の違いを読むことが、日本の立ち位置を考える手がかりになると考えています。本ノートでは、具体的な数値の断定は避け、動向の方向性を地域ごとに整理します。
欧州 — ラグジュアリーと文化としての定着
欧州では、ノンアルコールが「我慢の代替品」から「文化的な選択肢」へと位置づけを変えてきたと観察されます。象徴的だったのは、LVMH 傘下の Moët Hennessy が、フランス発のノンアルコール・スパークリング French Bloom へ出資した 2025 年の動きです。ラグジュアリーの最前線に、ノンアルコールが置き直された出来事でした。
英国を中心に定着した、一月を飲まずに過ごす文化的な習慣のように、ライフスタイルとして飲み方を選ぶ動きも根づいています。欧州の潮流に共通するのは、ノンアルコールを味気ない選択ではなく、洗練された選択として扱う姿勢です。ここでは、品質と物語性が競争の軸になりつつあると私たちは捉えています。
北米 — 健康・ウェルネスからの入口
北米では、健康やウェルネスへの関心が、ノンアルコールの主な入口になっていると観察されます。日々の飲酒量を意識的に減らす動きや、それを支える専門店・専門ブランドの広がりが、市場を後押ししてきました。
北米の特徴は、選択の理由が個人の健康管理と結びついていることです。「飲まない」ことが、自己管理の一環として前向きに語られる。この文脈では、機能性や成分への関心が高く、味わいと同じくらい「体にどう作用するか」が問われます。日本のブランドが北米に向き合うとき、この健康起点の動機を無視して味だけを訴えても、届きにくいだろうと私たちは考えています。
アジア — 多様な飲用文化と、これからの伸びしろ
アジアは、地域ごとに飲用文化が大きく異なるぶん、ノンアルコールの受け止め方も一様ではありません。宗教的・文化的にアルコールを控える地域が古くからある一方、経済成長とともに新しい飲用スタイルが生まれている地域もあります。
この多様さは、裏を返せば伸びしろでもあります。お茶をはじめとする豊かな飲用文化を持つ地域では、ノンアルコールが「新しいもの」ではなく「もともと親しんできたものの延長」として受け入れられる素地があります。日本の茶やハーブ、果実を使った飲料は、この文脈と相性が良い可能性があると、私たちは仮説を立てています。ただし、これは今後の観察を要する見立てであり、断定はできません。
日本の立ち位置 — 潮流の交差点として
三つの地域の動機を並べると、日本の立ち位置が見えてきます。日本には、欧州が重視する物語性と品質、北米が求める健康や自然さ、アジアが親しむ飲用文化——その三つの要素が、いずれも素材と技術のかたちで揃っています。
Michelin Guide 2026 でノンアルコールペアリングが業界の議論に上がり、国内でもサントリーの 2024 年 6 月調査が需要の広がりを示しています。日本は、これらのグローバルな潮流が交差する地点に立てる可能性があると考えています。だからこそ Maison Brand と Non-Alcohol Agency は、国内の現場を丁寧に磨きながら、この交差点をどう活かせるかを、Discovery の途上でゆっくり見極めているところです。
潮流を、追いかけるのではなく読む
グローバルな潮流について語るとき、私たちが避けたいのは、数字に煽られて追いかけることです。市場が伸びているという話は、そのままでは自分たちの事業の指針になりません。
大切なのは、なぜその地域でノンアルコールが選ばれているのかという動機を読み、そのうえで日本の素材と物語が何を差し出せるかを考えることです。潮流は追いかける対象ではなく、読むための材料だと捉えています。世界の動きを冷静に読みながら、日本の土地が持つものを、あわてず届けていきたいと考えています。
本記事は現時点での動向の見立てであり、具体的な市場数値は出典の一次情報をご確認ください。
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Sources · 出典
- · IWSR『No- and Low-Alcohol Strategic Study』(世界の no/low alcohol 動向の代表的調査シリーズ)
- · LVMH・Moët Hennessy × French Bloom 出資 (2025 公式 release)
- · Michelin Guide 2026 — ノンアルコールペアリングをめぐる業界議論
- · サントリー『ノンアルコール飲料に関する意識調査』2024 年 6 月 (国内の需要要因)
Auteur · 著者
Sun&R.LabSun&R.Lab 合同会社 代表
