"食と観光" を、別々の話として読まない
インバウンド観光と、ノンアルコール飲料市場。この二つは、これまで別々の文脈で語られることが多くありました。観光は観光庁・自治体・宿泊業界の話、ノンアルコールは食品メーカー・飲食業界の話、というように。
Sun&R.Lab は、この二つを 同じ平面に並べて読む ことにしました。観光庁の『訪日外国人消費動向調査』2025 年第 1 四半期では、訪日客の体験消費は引き続き厚みを増しており、「日本でしか得られない体験」への関心は定常的な需要として観察されはじめています。一方、ノンアルコール飲料市場は、サントリー社の 2024 年 6 月調査でも、IMARC Group の市場予測でも、質的転換期に入っていることが確認されています。「飲めない」から「飲まないを能動的に選ぶ」へ。
この二つを並べて読むと、ある交差点が見えてきます。インバウンド客のなかには、宗教的・文化的・健康的理由でアルコールを摂らない方々が一定の比率で含まれます。彼らに対しても、「日本でしか得られない体験」を、アルコールを前提とせずに提供できるかどうか ── これが、食と観光の交差点に置かれた問いです。本記事は、この交差点を Sun&R.Lab がどう編もうとしているか、戦略のノートとして綴ります。
なぜ "飲まない方々" にこそ、日本のテロワール体験を届けたいか
ノンアルコール飲料を扱う事業者の多くは、「飲める方の代替品」として商品を設計してきました。健康診断で休肝日を勧められた方、運転される方、妊娠中の方。これら「やむを得ず飲まない方々」への代替提案として、ノンアルコールは扱われてきた歴史があります。
ただ、インバウンドの文脈で見ると、別の景色が立ち上がります。宗教的に生涯アルコールを摂らない方々 (ムスリム圏、ヒンドゥー圏の一部、その他)、文化的にアルコールに距離を置く方々、健康志向で能動的にアルコール量を抑える方々。彼らは「やむを得ず」ではなく、「能動的に選んで」飲んでいません。
この方々に対して、日本のテロワールを、アルコールを前提とせずに届けられるかどうか。これは、観光体験の質を直接的に左右する問いだと、私たちは観察しています。アルコールを楽しまれない方が、星付きのレストランで「ジュースかソフトドリンク」しか選択肢がない夜と、産地の物語を宿したノンアルコールペアリングがある夜では、その夜の記憶の彩度がまったく違ってきます。
Sun&R.Lab がノンアルコールに事業の重心を置いているのは、市場規模の話だけではありません。インバウンド観光の文脈で、能動的に飲まない方々にこそ日本のテロワール体験を届ける ── そういう種類の事業を編みたいから、というのが本質に近い理由です。
三層の戦略 — 産地・厨房・卓を結ぶ
インバウンドとノンアルコールの交差点を編むには、三つの層を同時に設計する必要があると、私たちは考えています。
第一層: 産地の物語を、商品に宿す
訪日客の体験消費の核にあるのは、「ローカル」「オーセンティック」「ストーリー性」です。GI 登録された産地のぶどう山椒、雪深い土地で育つ在来茶葉、太平洋側と山間部の交差で育つ柚子。これらの物語を、ノンアルコール飲料というかたちに翻訳して、ボトル内に閉じ込める。これが第一層の仕事です。Maison Brand 事業 (NEIGE & THÉ) が中心的に担う領域でもあります。
第二層: 厨房と卓で、体験として編み直す
産地の物語が宿った商品を、星付きレストランやラグジュアリーオーベルジュ・五つ星ホテルの厨房で、コース体験として編み直す。料理人とソムリエの感性で、五軸のペアリングを設計する。ゲストへの説明を、ワインを語るのと同じ精度で行う。これが第二層の仕事です。Non-Alcohol Agency 事業が、店舗との共創のかたちで支えていきたい領域です。
第三層: 旅の記憶を、家庭の食卓まで運ぶ
一夜の体験で終わらせず、ボトル単位で家庭の食卓に持ち帰れる構造を作る。EC サイトでのリオーダー、ギフトとしての展開、海外への輸出。一度のディナーが、数ヶ月にわたる家庭の食卓の記憶に繋がっていく。これが第三層の仕事です。Maison Brand と Agency が連携して、これから少しずつ実装していきたい領域です。
三層は、別々に動くのではなく、同時に立ち上がってこそ意味を持ちます。産地だけでは商品にならない。厨房だけでは記憶にならない。卓だけでは循環にならない。三つが一つの一杯のなかで響き合うとき、はじめて「日本のテロワール体験」がインバウンドの方々に届く構造になります。
自治体・地域行政との連携
インバウンドとノンアルコールの戦略は、Sun&R.Lab 一社で完結する話ではありません。地域の生産者ネットワーク、自治体の観光振興、観光協会のプロモーション ── これらと連携してはじめて、三層の構造が立ち上がります。
デジタル庁の『地方公共団体 DX 推進計画』にも見られる通り、地方自治体の観光・地域ブランディング領域では、外部の専門事業者との共創が重要なテーマになりつつあります。Sun&R.Lab は、その共創パートナーの一つとして、自治体・観光協会の皆様とも対話を重ねていきたいと考えています。
地域の生産者の物語を NEIGE & THÉ のレシピに統合し、その商品を地域内のラグジュアリーホスピタリティ施設で展開する。同時に、自治体の観光プロモーションや、海外向けの体験コンテンツに組み込む。これは地域全体のブランド価値を引き上げる構造的な企画になり得ます。Discovery の途上で、私たちはこの種の対話を、これから少しずつ編んでいきたいと考えています。
三事業との関係 — インバウンド戦略は横断テーマ
インバウンドとノンアルコールの戦略は、Sun&R.Lab の三事業すべてに横断的に関わります。
Maison Brand 事業では、インバウンドは商品設計の射程を直接的に拡張します。ハラル対応、アレルゲン表示の多言語化、ギフトとしてのパッケージ設計。海外バイヤーや訪日客の家庭にまで届く構造を、商品の前提として組み込んでいきたいと考えています。
Non-Alcohol Agency 事業では、インバウンドは伴走支援の重要なテーマです。店舗・宿泊施設のインバウンド対応 (多言語メニュー、ペアリング解説、SNS 運用) を、五領域支援の一つとして提供していきます。観光庁の 2025 年第 1 四半期調査が示すような体験消費の厚みを、店舗の現場で取り込んでいけるかどうかが、Agency 事業の価値を直接左右する局面に入りつつあります。
BizDev 事業では、インバウンドは別の角度から関わります。たとえば物流業界の DX 案件のなかには、訪日客向けの体験商品の流通設計・在庫管理が含まれることがあります。あるいは、ラグジュアリーブランドの新規事業として、訪日客向けのコンシェルジュサービスが議論されることがあります。Sun&R.Lab がノンアルコールで磨いている方法論が、これら BizDev の現場で形を変えて使われていく可能性を、私たちは観察しはじめています。
国際展開という、もう一つの北極星
インバウンド戦略は、最終的には「日本のテロワールを、世界の食卓のお供として届ける」という、もう一つの北極星に繋がっています。
Sun&R.Lab の ROADMAP では、FY27 H1 を "World Bridge Phase" として、海外展開の本格始動期と位置付けています。中東のラグジュアリーホテル、欧米のミシュラン星付きレストラン、アジアの新興富裕層市場 ── これらの現場でブランドを確立していくには、必ず現地のパートナーが必要になると、私たちは捉えています。いまはまだ国内の Discovery フェーズの途上にあり、海外は遠くに掲げた北極星ですが、この方角に向けて準備を始めている段階です。
インバウンド (訪日客が日本で体験する) と、国際展開 (日本のテロワールが海外で語られる) は、構造的につながった戦略です。訪日中に NEIGE & THÉ を体験された方が、帰国後に EC で取り寄せる。海外バイヤーが、訪日中に日本のホスピタリティ現場で日本のテロワールに触れる。一夜の体験が、長期の関係性へと続いていく ── そういう循環構造を、私たちは編んでいきたいと考えています。
"飲まない選択" が、世界を新しく見せる
最後に、もう一度、視野を引いてみたいと思います。
ノンアルコールというレンズを通して見えてくるのは、おそらくノンアルコール市場そのものの可能性だけではありません。日本の食と観光が、これから世界の食卓のなかでどう位置づけられていくか ── その地平への、もう一つの入口でもあると、私たちは仮説を立てています。
産地が、土地の物語をひとくちのなかに織り込む。厨房が、その物語を一夜の体験として編み直す。卓が、その体験を旅の記憶として持ち帰る。家庭の食卓で、もう一度、その物語が芽吹く。インバウンドの方々が、日本で出会った一杯を、自国の食卓で再現する。
飲まない選択が、世界を新しく見せる ── そう信じて、Sun&R.Lab は Discovery の途上で、いま編んでいます。
次回は、Discovery 期にある組織として、どんな姿勢で事業を編んでいるかを、原点に戻って綴ります。
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Sources · 出典
- · 観光庁『訪日外国人消費動向調査』2025 年第 1 四半期
- · Michelin Guide 2026 — アドバンスド・ノンアルコールペアリングをめぐる業界議論
- · LVMH × French Bloom 出資ラウンド (2025 公式 release)
- · サントリー『ノンアルコール飲料に関する意識調査』2024 年 6 月
- · IMARC Group『Japan Non-Alcoholic Beverage Market Report』2025
- · デジタル庁『地方公共団体DX推進計画』(自治体連携の文脈)
Auteur · 著者
中山 光博Sun&R.Lab 合同会社 代表
